
クラリネットは、あたたかく豊かな音色で多くの人を魅了する木管楽器です。吹奏楽やオーケストラの定番楽器であり、クラシック音楽からジャズまで幅広いジャンルで活躍しています。
しかし、クラリネットには複数のメーカーとモデルが存在し、それぞれ異なる特徴を持っています。初心者の方にとっては、どのメーカーを選べばよいか判断するのは決して簡単ではありません。
今回は、クラリネットの主なメーカーと選び方をまとめました。
クラリネットは楽器メーカーによって音色や演奏したときの感覚、価格帯が大きく異なります。適切なメーカーを選び、理想の音色を手に入れましょう。
クラリネットの主要メーカー

クラリネットの主要メーカーには以下の3つが挙げられます。
- YAMAHA〈ヤマハ〉
- BUFFET CRAMPON〈ビュッフェ・クランポン〉
- HENRI SELMER〈ヘンリー・セルマー〉
各メーカーの特徴について詳しく説明します。
YAMAHA〈ヤマハ〉
ヤマハは、日本を代表する総合楽器メーカーです。1967年にクラリネット製造を開始して以来、半世紀以上にわたって技術革新を続けてきました。
初心者向けのエントリーモデルから、世界的なプロ奏者が愛用する高級機種まで、幅広いラインナップを展開しています。
特に音程の安定性と演奏のしやすさに定評があり、音の調和を重視する吹奏楽の現場で高く評価されています。
また、ヤマハのクラリネットは奏者のニーズに合わせて選択できる2つの系統が特長です。
「SEシリーズ」は豊かに広がるあたたかで柔らかな音色が魅力で、「CSシリーズ」は明瞭で力強い音の伸びが特徴です。
このラインナップにより、演奏スタイルや音楽ジャンルに最適なクラリネットを選択できます。
BUFFET CRAMPON〈ビュッフェ・クランポン〉
ビュッフェ・クランポンは、1825年創業のフランスを代表する木管楽器メーカーです。
創業から約200年という長い歴史を持ち、伝統的な職人技術と最新の革新技術を組み合わせることで、世界中のプロ演奏者から愛されるクラリネットを製造しています。
同社のクラリネットは、表情豊かで美しい音色と深い響きが特徴です。日本のメーカーが音程の正確さや操作の安定性を重視するのに対し、フランスの老舗メーカーであるクランポンは音楽的表現力と音色の豊かさを最優先に設計しています。
また、クランポンのクラリネットも初心者からプロフェッショナル向けまで幅広いレベルに対応した製品ラインナップが魅力です。
クラリネット初心者や学生の方には、操作性に優れた学生向けモデルが最適です。
一方、ソロ演奏や本格的なクラシック演奏を行う方には、音色の表現力が格段に向上するプロフェッショナルモデルをおすすめします。
HENRI SELMER〈ヘンリー・セルマー〉
ヘンリー・セルマーは、1885年にクラリネット奏者だったアンリ・セルマーによって設立されました。
初めはクラリネット製造から始まりましたが、後にサックスの製作も開始し、現在では、プロフェッショナル用サックスの世界的な先駆メーカーとしても知られています。
セルマーのクラリネットは、輪郭がはっきりとした前に出る音色が魅力です。クランポンの「まろやかで柔らかな音色」とは対照的に「明瞭ではっきりとした音色」を実現させています。
セルマーの製品は、プロフェッショナル仕様のモデルが中心となってる印象です。初めてセルマーのクラリネットを手にする方には、人気モデル『プレヴィレッジ』や『プレザンス』の技術を継承した『プロローグ』がおすすめです。
セルマーの最先端技術を搭載しながら、コストパフォーマンスにも優れた一台となっています。
クラリネットの種類と特徴

クラリネットは種類によって音色や扱いやすさに大きな違いがあります。
- 材質
- 運指タイプ
今回はこの2つについて詳しく説明します。
①材質
クラリネットの材質は2種類あります。
- プラスチック製(ABS樹脂)
- 木製(グラナディア)
それぞれの特徴をみていきましょう。
プラスチック製(ABS樹脂)
プラスチック製のクラリネットは、木製のクラリネットと比べると安価でメンテナンスも簡単なため初心者にも扱いやすいのが特徴です。
また、比重が軽く、温度・湿度変化に強い素材のため、野外での演奏にも適しています。
音は、木製のクラリネットと比べると明るく、クリアなイメージです。クラリネット特有の深く、温かみのある音は木製には劣りますが、初心者でも吹きやすく、安定した音が出しやすいのがプラスチック製のメリットです。
木製(グラナディラ)
現在主流となっている黒色クラリネットには、アフリカ産の木材であるグラナディラが使用されています。
このグラナディラ材こそが、クラリネット特有の深く豊かな音色を実現する重要な要素となっています。
木製のクラリネットの特徴は、深みのある音色と表現力の幅広さです。優しく落ち着いた雰囲気の曲からダークなイメージの曲まで広く表現できます。
また、プラスチック製のクラリネットよりも比重が重く比較的柔らかいため、適度な抵抗感があります。
適度な抵抗感は、音色のコントロールや表現力の細やかな調整に適しています。この特徴により、経験豊富な奏者でも十分に満足できる本格的な演奏体験を得られるでしょう。
②運指タイプ
運指とは、クラリネットを演奏する際に指でキーやトーンホールを操作する方法のことです。
運指タイプには2種類が挙げられます。
- エーラー式
- ベーム式
エーラー式
エーラー式は、19世紀に活躍したドイツのクラリネット演奏家であり楽器職人でもあったオスカー・エーラーにより生み出されました。
ドイツやオーストリアを中心としたヨーロッパ地域では、クラシック音楽演奏における主要な手法として広く受け入れられています。
エーラー式クラリネットの音色は、厚みがあり深く沈んだ暗い色調を持つことで知られており、クラシック楽曲の微妙な感情表現に長けている点が特徴です。
ウィーンフィルハーモニー管弦楽団など、世界屈指の権威あるオーケストラにおいても、エーラー式クラリネットが継続的に採用されています。
この複雑なキー構造は習得に相当な努力を要しますが、一度身につければ他方式では不可能な微妙な音程の変化や音色の変化を自在に操れます。
ベーム式
ベーム式は、現代において世界中で最も幅広く採用されている運指タイプであり、日本国内においても一般的な運指として定着しています。
この運指タイプはフランスを起点として国際的に普及を遂げ、現在では数多くの楽器製造会社がベーム式を基準とした設計を行っています。
ベーム式の最大の利点は、その運指パターンがシンプルで覚えやすく構成されていることです。そのため、半音階の演奏や技術的に困難なパッセージの実行において優れた操作性を発揮します。そのため、初心者にとっても習得しやすいといえるでしょう。
音色は、明るく華やかで軽快な響きを特徴としており、アンサンブルやオーケストラにおいて他の楽器との音響的調和を図りやすく、全体の音響に自然に馴染む性質を持っています。
この音色の特性と扱いやすさが相まって、ベーム式は世界標準のクラリネット運指タイプとしての地位を確立しています。
クラリネットを選ぶポイント

クラリネットを選ぶポイントについてまとめました。
- どんな音色を出したいか
- 扱いやすさ
- 価格
以下で詳しく説明します。
どんな音色を出したいか
まずは、どんな音色で演奏したいかでクラリネットを選んでみましょう。
自分が良いと思う演奏、音色を見つけ、自分が目指したい音のイメージを具体的に持つことが重要です。明るい音色、暗い音色、温かい音色など好みの方向性を決めましょう。
また、今よりもっとクラリネットの音色を良くするには、自分の音と理想の音の違いを理解する必要があります。
現在の自分の音色と理想とする音色の差を把握すれば、どのような楽器を選ぶべきかが見えてきます。
楽器販売店では、試奏を許可している店舗も多く、試奏ができれば実際の音を聴けます。好きな音で選んだ1本は愛着の湧く1本になるでしょう。
扱いやすさ
クラリネットを選ぶ際に、扱いやすさはとても重要なポイントです。
クラリネットは見た目よりもデリケートな楽器です。気温や湿度の変化、使い方や保管方法によって、コンディションが変わります。
演奏後のお手入れを怠ると楽器の寿命を縮めてしまうため、正しい方法と適切な道具を使って、愛用の楽器を長く大切に使えるようメンテナンスしましょう。
クラリネットはプラスチック製と木製の2種類がありますが、木製よりもプラスチック製の方がメンテナンスや管理は簡単です。
初心者の方はまず、プラスチック製のクラリネットから徐々に慣らしていくのが最適でしょう。
価格
クラリネットを選ぶ上で、価格も重要なポイントのひとつです。
クラリネットは、安価なものでも10万円以下、材質や音にこだわられている高級モデルだと50万円以上するものなど、価格の幅が非常に広いです。
決して安い買い物ではないですし、仮に欲しいモデルが決まっていたとしても50万円だと言われたら、躊躇ってしまいます。
クラリネットの価格で迷った場合は価格と+αで購入する理由を考えてみましょう。クラリネットはきちんとメンテナンスをしていれば、何十年と長く使える楽器です。
価格は非常に重要なポイントではありますが、「高い」「安い」だけにとらわれず、欲しいモデルを手にできるような理由を考えてみましょう。
クラリネットのメーカーや種類を知って理想の一本を手に入れよう

クラリネットの一番の魅力は、なんといっても豊かな表現力です。
深く温もりのある低音から、きらめくように美しい高音まで、まるで人の声のように多彩な音色を奏でられます。クラシックの格調高い響きからジャズの自由な表現まで、ジャンルを選ばない懐の深さも魅力的です。
楽器店で実際に手に取り、音を響かせてみてください。きっと演奏している自分の姿がより鮮明にイメージできるはずです。
そしてあなたの理想の音色を奏でる一本に巡り合えることでしょう。
特別な一本を見つけて、クラリネットが織りなす音楽の世界に心ゆくまで浸ってみませんか。